【社労士監修】残業の定義とは?残業の考え方や計算方法をわかりやすく解説
目次
働き方改革の影響で、残業代の時効年数や割増賃金の適用範囲が変更されるなど、残業に関する法改正が進んでいます。
「今さら残業代の計算なんて......」と思わず、いま一度「残業代の仕組み」について理解を深めることで、思わぬ労務トラブルを避けることもできるでしょう。
残業の定義や残業の種類、残業時間の計算方法から、勤務形態別の残業代の仕組みについて解説します。
残業の定義とは
残業の定義を、「定時を超えた就業」ととらえている方も多いのではないでしょうか。
その考え方も間違いではないですが、正確に残業を定義すると「所定労働時間を超えておこなった労働」となります。
残業を正しく理解するためには、「労働時間」を理解しておくことが必要です。
残業を理解するとともに、労働時間の仕組みについても理解を深めましょう。
残業代請求の時効延長とは
働き方改革の影響で、残業に関する法改正も進んでいますが、「未払い残業代の支払いに関する時効延長」もそのうちのひとつです。 残業に関する考え方は、やや複雑な面があるため、図らずとも未払い残業代が発生してしまい、発覚後に従業員から未払い分を請求される、といったトラブルが度々みうけられます。
この未払い残業代の支払い義務は、従来「2年前まで」の残業代をさかのぼって請求することが可能とされていましたが、2020年4月からこの時効が3年間に延長されました。
未払い残業代は、場合によっては多額の金額になることも想定され、3年前までさかのぼれるとなると、支払い義務を負う企業にとっては存続に関わるダメージになる可能性もあります。
このような法改正の背景からも、いま一度、残業代に関する知識をアップデートし、正しい理解をすることが大切であることがわかるでしょう。
>未払い賃金の時効延長と企業に求められる対応に関する記事はこちら
所定労働時間とは
残業の正しい理解には、「労働時間」が欠かせない要素ですが、労働時間には、「所定労働時間」と「所定外労働時間」の2種類が存在します。
「所定労働時間」は、職場の就業規則や雇用契約で定められている通常の労働時間を指すもので、たとえば、
始業9:00、終業17:00、休憩は12:00から13:00までの1時間
の職場の場合は、所定労働時間が7時間ということになります。
所定労働時間の7時間を超える労働時間を所定外労働時間と呼び、この労働時間が残業代の対象となります。
>【社労士監修】労働基準法における休憩時間の定義とは?に関する記事はこちら
労働基準法における残業とは
残業代の対象となる労働時間について解説してきましたが、残業の対象となる「所定外労働時間」は、さらに2種類に細分化できます。
2種類の「所定外労働時間」を見わける際に、ポイントとなるのが、「1日及び1週間で勤務させてもよい時間数」として、法律で定められている法定労働時間です。
法定労働時間は、一部例外はありますが、基本的には「1日8時間、1週間40時間」と決められています。
この「法定労働時間」を軸に、残業(所定外労働時間)の理解を深めていきましょう。
法定内残業
「法定内残業」は、通常の労働時間(所定労働時間)を超過してしまっても、法定労働時間は超えない残業のことを指します。
たとえば、上述した「所定外労働時間7時間の職場」の場合は、終業17:00を超えて、18:00まで残業したとすると、1日の労働時間は8時間になります。
この場合、1時間の残業をおこなっていますが、1日の法定労働時間8時間を超えていないため、これは「法定内残業」となります。
法定外残業
一方、同じ職場で19:00まで勤務した場合は、1日の労働時間が9時間となってしまうため、1日の法定労働時間8時間を、1時間超過してしまいます。
この場合、2時間の残業のうち、17:00〜18:00の1時間は法定内残業、18:00〜19:00の1時間は、法定外残業ということになります。
割増残業代の対象
2種類の労働時間と、2種類の所定外労働時間を解説してきましたが、ここからは「残業代の計算方法」について理解を深めていきましょう。
労働基準法では、残業した時間に対して、「割増賃金」を支払うことを会社に義務づけていますが、割増賃金の対象となる残業は法定外残業のみです。
つまり、2種類の所定外労働時間の「法定内残業」と「法定外残業」を区別なく取り扱い、一律に割増賃金を支給してしまうと、法律で定められた以上に賃金を支払うことになってしまいます。
また、この2種類の所定外労働時間の区別について、正しい理解をしておかないと、残業代を正確に計算していたとしても、割増賃金が加算されない法定内残業に対して、従業員から説明を求められた際に、納得のいく回答ができず、不信感を抱かせてしまう危険性もあります。
残業代の対象となる残業とならない残業について、正しい説明ができるレベルの理解をしておくことで、思わぬ労務トラブルを避けることにもつながります。
従業員との信頼関係を維持するためにも、労働時間の定義や残業の対象となる労働時間について、正しく区別しておきましょう。
残業代の考え方と計算方法
割増残業の対象となる労働時間を把握できれば、残業時間に給与の単価をかけることで残業代の計算はできますが、この「単価」についてもルールがあります。
誤った計算にならないように、残業代の考え方と正しい計算方法についてみていきましょう。
残業代とは
「残業代」は、就業規則や雇用契約で定められた通常の労働時間を超える「所定外労働」に対して支払われるものであり、その計算に用いられる単価は、「基本給およびその他の手当(一部対象外あり)」がベースとなります。
また、残業代が多く支給される月は、社会保険料や税金の天引きが変動するか気になる方もいるかもしれませんが、残業代の額に連動して変動する項目は、一般的には、雇用保険と所得税のみです。
健康保険や厚生年金は、個々の従業員ごとに定められた等級によって金額が決定するもので、住民税は、昨年の所得金額で税額が決められているため、その月ごとの給与額の変動で、毎月の天引き額は変わりません。
残業代の計算方法
残業代の計算をする際に、「基本となる単価」は、基本給を所定労働時間で割った金額を用います。
たとえば、月給20万円の従業員で、月間の所定労働時間が160時間であれば、
20万円÷160時間=1,250円
となります。
この「基本となる単価1,250円」に、後述する各種の割増率をかけたものが「残業単価」です。
残業代とそのほかの手当の関係
住宅手当や通勤手当などの基本給以外に支給される手当が、単価計算に加算されるかは、注視すべきポイントです。
基本的には、福利厚生の意味あいが強い手当(住宅手当や通勤手当)や、臨時的な手当などの一部手当を除いて「すべて単価計算に加算すべき」とされています。
つまり、職務手当や役職手当といった手当は、単価計算の際に加算すべき手当です。
しかし、住宅手当や家族手当といった名称の手当であっても、一律従業員全員に支給されている手当は、単価計算に組み込む必要がある点には注意しましょう。
たとえば、実家暮らしでも持ち家の場合でも、住宅手当が一律月額3万円支給されるといった制度を採用している場合は、単価計算に組み込みます。
残業代の割増率とは
残業代を計算する際の「単価」について解説してきましたが、ここからは、その単価にかけあわせる「割増率」について解説していきます。
労働基準法においては、法定時間を超える労働に対する賃金には、割増率をかけた額を支払うよう定められており、この割増率も、法律で定められたパーセンテージを下回ることは認められていません。
就業規則などで、定められた以上の割増率を定めている場合、本来ならば支払う必要のない金額にまで残業代が膨れあがってしまうため、就業規則を作成する際は、労働基準法を必ず事前に確認するようにしましょう。
残業の種類と割増率
割増率は、残業の種類ごとに定められています。
割増賃金の対象となるのは、上述している通り「法定外残業のみ」のため、「法定内残業」に対しては、割増率をかけない通常単価での支払いで問題ありません。
通常残業(下記の残業以外) | 25% |
---|---|
深夜残業 | 50%(通常残業25%+深夜25%) |
休日労働 | 35% |
休日深夜 | 60%(休日労働35%+深夜25%) |
また、残業が月で60時間を超えた分に対しては、割増率が25%から50%にあがるため、注意が必要です。
この制度は、一定規模以上の大企業限定のルールでしたが、働き方改革関連法の施行により、2023年4月から中小企業も対象となりました。
勤務形態別の残業代の考え方
ここまで解説してきた残業代の計算は、比較的ベーシックな考え方です。
そのため、近年増えているフレックスタイム制や変形労働時間制を導入している企業においては、そもそもの所定労働時間の算出がやや困難であるため、残業代の計算も少し複雑になります。
勤務形態や働き方、役職別の残業代の考え方について理解を深め、正しい労務管理をおこないましょう。
管理職の残業代
課長や部長といった「管理職」の残業代については、その管理職の立場が、労働基準法でいうところの「管理監督者」に該当するのかによって、扱いが変わります。
労働基準法で定められた「管理監督者」に該当する場合は、残業代や休日出勤に対する割増賃金を支払う必要がありません。
「管理監督者」に該当するか否かは、厳格な判断が必要となるため、役職さえついていれば「管理監督者」として扱えるわけではない点に注意が必要です。
ただし、「管理監督者」の場合でも、深夜時間帯の労働に対する25%の割増賃金の支払い義務は残ります。
役職の扱いと、それにともなう残業代の支払い義務については、トラブルが発生しやすい点でもあるため、しっかりと理解するようにしましょう。
フレックスタイム制の残業代
「フレックスタイム制」は、始業終業時刻を一律に定めずに、一定の枠内で始業終業の時刻を従業員の裁量に委ねるという働き方のため、どこからが残業時間となるのかの判断が難しいでしょう。
企業でフレックスタイム制を導入する場合は、「清算期間」を設け、この清算期間に対応する法定労働時間の枠内で、所定労働時間を決めるようにしましょう。
フレックスタイム制の残業時間を考える際は、この清算期間内の労働時間のうち、清算期間の法定労働時間を超過した時間が、割増賃金の支払い対象となる残業時間ということになります。
フレックスタイム制は、労働時間を管理しにくい働き方ですが、導入によるメリットも大きいため、ルールや管理方法をしっかりと決めたうえで、スムーズな導入を目指すようにしましょう。
>フレックスタイム制の仕組みや導入のポイントに関する記事はこちら
裁量労働制の残業代
「裁量労働制」とは、所定労働日に、一定時間の労働をしたとみなす働き方です。
たとえば、所定労働日が月曜から金曜で、所定労働時間が各日8時間とすれば、月曜から金曜に、それぞれ、10時間働いていても、7時間働いていても、8時間労働したとみなすということです。
この働き方の場合、残業代が発生しないようにも思えますが、土日の勤務に対しては、裁量労働制の場合も、割増賃金の支払い対象になります。
また、月曜から金曜で、深夜時間帯に勤務していれば、深夜の割増25%の支払いの義務も発生します。
裁量労働制は、従業員側の裁量が大きい働き方ですが、長時間労働やサービス残業なども発生しやすい働き方のため、企業側の管理にも工夫が必要といえるでしょう。
変形労働時間制の残業代
労働基準法においては、法定労働時間は、基本的に1日8時間、1週間40時間以内と定められていますが、ある一定の期間内において、平均して1週間の所定労働時間が40時間以内であれば、法定労働時間を超過していても、割増賃金の支払い義務が発生しないというのが「変形労働制」です。
たとえば、1年間の変形労働時間制の場合、閑散期には8時間×週4日の勤務とし、繁忙期には8時間×週6日の勤務でシフトを組み、1年間を通じて、1週間の平均所定労働時間が40時間以内となるように設定したとします。
この場合、繁忙期の週48時間勤務のうち、40時間を超過する8時間に対しても、変形労働制をとっているため、割増賃金の支払い義務が発生しません。
ただし、所定労働時間を超過する以下のケースに該当する場合は、残業代を支払う必要があるため、注意が必要です。
・ある週で所定労働時間を超え、法定労働時間を超過する場合は、割増賃金
・ある週で所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない場合は、通常単価
年俸制の残業代
近年、成果主義の一環として導入されることの多い「年俸制」の場合は、「年俸/1年間の所定労働時間」で、時間あたりの単価を算出することができるため、あとは、通常の残業代の計算と同じように計算することができます。
日給制の残業代
「日給制」に関しても、時間単位の単価を算出することができれば、通常の残業代の計算と同じように計算することができます。
・時間単位の単価の計算方法
日給÷1日の所定労働時間
・法定内残業の場合の計算方法
残業時間×時間単価
・法定外残業の場合の計算方法
残業時間×時間単価×割増率
正しい知識を業務に活かしましょう
働き方改革の影響で、残業に関する法改正も進んでいます。
「今さら残業代の計算なんて......」と思う方も多いかもしれませんが、誤った知識は思わぬ労務トラブルを引き起こしてしまう危険性もあります。
多様な働き方が推進されるなかで、労務管理はより複雑なものになることが予想されるため、今一度、自分の知識が正しいかの確認やアップデートをおこないましょう。
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記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)
2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。