【社労士監修】パパママ育休プラスとは?取得の条件や制度内容をわかりやすく解説
目次
パパママ育休プラスという制度を知っていますか。
男性の育児休暇義務化にともない、耳にする機会は増えているものの、どのような制度かわからない方も多いのではないでしょうか。
今回は、パパママ育休プラスの制度について、その土台となる育児休業制度について触れながら、制度のメリットや申請方法、制度運用にあたっての留意点などを解説します。
企業の担当者は、従業員が安心して育児と仕事の両立ができるように、制度の内容を確認していきましょう。
パパママ育休プラスとは
パパママ育休プラスとは、従来の、子育ての責務が母親に偏っている状態から、父親も子育てに参画する機会を増やす目的で、2010年からスタートした制度です。
詳しくは後述しますが、要件を満たしていれば、育休を延長して取得できたり、夫婦で別々の期間に取得することができたりする制度です。
パパママ育休プラスの理解を深めるために、まずは土台となる「育児休業制度」について、確認していきましょう。
そもそも「育児休業」とは
パパママ育休プラスを上手く活用するには、土台となる「育児休業」についての理解が欠かせません。
まず、雇用保険に加入している女性従業員が妊娠・出産した際、産後8週間は、「産後休業」、これが終了してから、子が1歳を迎えるまでの子育てのための休業が、「育児休業」です。
わざわざ「産後休業」と「育児休業」をわけている理由は、それぞれの休業を取得する従業員が得られる社会保障の制度が別物であるためです。
妊娠・出産・育児の間は、就業して収入を得ることが困難でしょう。
そのため、「育児休業」期間中は雇用保険制度から、「育児休業給付金」が支給され、育児休業中の給与が補填されるのです。
パパママ育休プラスを活用するメリット
育児休業は、前述の通り、原則、子どもが1歳なってからは、保育園に預けることができないなどの事情がない限り、延長ができません。
この制限は、父親の育児休業についても同様ですが、パパママ育休プラスの要件を満たすと、子が1歳2か月になるまで育児休業を延長することができます。
ただし、父親・母親のひとりずつが取得できる休業期間(母親は産後休業期間を含む)の上限は、1年間であり、この上限は変わりません。
「上限はそのままで、パパママ育休プラスを使うと期間が延長される」という情報だけでは、パパママ育休プラスにどんなメリットがあるのかイメージしづらいでしょう。
パパママ育休プラスの取得パターンについて、例をみていきましょう。
パパママ育休プラスの取得パターン
たとえば、1月1日に出産をした女性従業員Aさんが、産後休業(産後8週間)を終え、同年2月26日から育児休業にはいるとします。
育児休業中、Aさんは、「育児休業給付金」をうけとりながら子育てができます。
しかし、特別な事情がない限り、育児休業は、子が1歳に到達する同年の12月31日をもって終了となります。
また、父親であるBさんが、同年3月1日から、育児休業を取得した場合、パパママ育休プラスの制度ができるまでは、子が1歳に達する12月31日までの10か月しか育児休業を取得することができませんでした。
しかし、パパママ育休プラスを利用すると、Bさんは、子が1歳2か月に達する2月末日まで育児休業を取得することができるようになります。
母親のAさんは、産後休業もあわせて、1年間を超える育児休業の取得は原則できないため、12月31日までの育児休業となることは変わりませんが、父親Bさんが、2か月多く育児休業を取得できると、育児を任せている間に、復職に向けた準備をすることもできるでしょう。
ほかにも、様々なパターンが考えられますが、パパママ育休プラスを活用して、男性の育児休業の終了を2か月延長することで、男性が育児に参画し、母親の社会復帰の下支えにもつながるといったメリットが、パパママ育休プラスにはあります。
パパママ育休プラスは、男性が、産後3か月以降に育休を取得することで、取得期間を1歳2か月まで可能にするというもので、通常の育休と最大の取得可能期間は変わりません。
2か月取得期間が延長される制度ではないため、注意しましょう。
パパママ育休プラスの給与・条件
育児休業とは異なる育児関連の制度であるパパママ育休プラスは、どのような取得条件があるのでしょうか。
パパママ育休プラスの取得条件と、取得中の給与について解説します。
パパママ育休プラスの取得条件
パパママ育休プラスを取得するためには、下記の4点の条件を満たす必要があります。
条件の内容をイメージしやすいように、前の取得パターンの事例と絡めて説明します。
- 夫婦(母親Aさん、父親Bさん)ともに育児休業を取得していること
- 配偶者(母親Aさん)は子の1歳の誕生日までに育児休業を取得していること
- 本人(父親Bさん)の育休開始予定日が子の1歳の誕生日前であること
- パパママ育休プラスの取得者(父親Aさん)の休業開始日が、配偶者(母親Aさん)の開始日以降であること
複雑な条件に思えますが、簡潔にすると、夫婦揃って育児休業を取得すれば、遅れて育児休業にはいった方(上記で言えば父親Bさん)は、子が1歳2か月になるまで、育児休業給付をうけることができます。
そのため、夫婦共に育児休業を取得する場合であれば、多くの場合、パパママ育休プラスの条件を満たすこととなります。
注意すべき点としては、遅れて育児休業にはいる方は、子が1歳になる前に育児休業にはいる必要があるということです。
ちなみに、上記の例の場合、父親Bさんがパパママ育休プラスを利用して育児休業にはいった後、母親Aさんが育児休業にはいる形で、パパママ育休プラスを利用することも可能です。
パパママ育休プラスの給与
雇用保険制度から支給をうけることができる「育児休業給付」は、育児休業にはいる前半年間の賃金を180で割った額の67%(支給対象の日数が180日を超えてからは50%)の支給をうけることができる制度です。
では、パパママ育休プラスにより、育児休業給付をうける場合は、育児休業給付についてはどのようなメリットがあるのでしょうか。
結論から言えば、パパママ育休プラスを利用した場合、上記のパーセンテージは変わりません。
そのため、先ほどの事例であげた場合で言えば、父親Bさんが2か月分多く、育児休業給付をうけることができます。
パパママ育休プラスの申請方法
パパママ育休プラスの申請をおこなう際は、会社に対しての申請と、育児休業給付に関する行政への申請のふたつについて意識しておく必要があります。
会社への申請は、育児休業を取得する場合、基本的には育児休業にはいる1か月前までに会社に申請する必要があります。
気をつけるべきは、行政への申請です。
この手続きを誤ってしまうと、パパママ育休プラスを利用する従業員が、延長された2か月分の育児休業給付金をうけとることができなくなってしまう可能性があります。
手続きに関わる書類は、パパママ育休プラスの対象となるパートナー(先ほどの事例でいうと父親Bさん)の「育児休業給付金資格確認表」「育児休業給付金支給申請書」が必要となります。
このふたつの書類は、育児休業給付を申請する際に必ず登場する書類です。
これに追加して、配偶者(母親Aさん)の育児休業取得の有無、配偶者(母親Aさん)の雇用保険被保険者番号を記載し、さらに、住民票の写しや配偶者(母親Aさん)の育児休業の取得を確認できる書類を添付する必要があります。
申請が難しく、不安だと感じたら、ハローワークや社会保険労務士等の専門家に相談して、余裕をもって準備をすることが大切です。
パパママ育休プラスの導入メリット
パパママ育休プラスは、休暇を取得する従業員だけでなく、会社にもメリットをもたらす制度です。
パパママ育休プラスを導入するメリットを、会社側の視点で紹介します。
企業のブランドイメージ向上
パパママ育休プラスは、大手企業を中心に導入事例が増えているものの、中小企業においては、知名度・利用率ともに高いとはいえない状況です。
だからこそ、パパママ育休プラスの導入を推奨し、「安心して子育てできる企業」としてアピールできれば、求人面においても他の企業と差別化できるブランディングを図ることができるでしょう。
従業員のモチベーション向上
出産・育児は、従業員にとって人生の一大イベントであり、パパママ育休プラスの利用を後押ししてくれる職場の存在は、従業員満足度の向上に効果的なことが想定されます。
また、プライベートと仕事の両立を支援してくれる職場では、従業員が高いモチベーションを保って働くこともできるでしょう。
ワークライフバランスの実現
働き方改革の影響もあり、「仕事だけでなく家族との時間を大切にしたい」と考える従業員は増加の傾向にあります。
父親の育児参画を推進するパパママ育休プラスの利用は、これに通ずるものがあり、家族と過ごす時間を増やし、ワークライフバランスの充実を促す効果が期待できるでしょう。
>ワークライフバランスにとりくむメリットに関する記事はこちら
女性の活躍推進につながる
パパママ育休プラス制度が開始された背景には、育児の負荷が母親に偏っており、これが原因で、就業可能な女性が、働く機会を逸していたという一面もあります。
パパママ育休プラスが推進されることで、父親も育児に参画できる機会を増やすことができれば、育児休業後の社会復帰の準備に充てる時間が生まれ、母親の社会復帰に繋がるという効果も期待されています。
定着率の向上につながる
労働人口の減少が問題視されている日本において、優秀な人材を確保することは、今後の企業の命題のひとつとなるでしょう。
このような環境下で、パパママ育休プラスを推奨し、「子育てに積極的に協力する企業」という立ち位置を確立することは、従業員にとっては非常に大きなメリットであり、人材の定着率向上をもたらすことにもつながるでしょう。
パパママ育休プラスを成功させるポイント
さまざまなメリットが期待できるパパママ育休プラスですが、ただ単に制度の利用を認めているだけでは、効果を発揮することは難しいです。
企業と従業員が、共にメリットを享受できる運用を実現させるためにも、4つのポイントに留意することが大切です。
- 柔軟な働き方を推進する
- 従業員フォローを徹底する
- 休みやすい職場環境をつくる
- 制度内容を明確化・周知する
それぞれの項目について、確認していきましょう。
柔軟な働き方を推進する
育児休業中は、予期せぬトラブルなどで、突発的な事情で出社が遅れる、休まなければならない場面も多く、会社が定めた、出勤日・出勤退社時刻を維持することが難しい可能性も想定されます。
このような子育て中の悩みを解消するために、必要に応じてフレックスタイム制度や短時間勤務制度を導入することは、従業員にとって、働きやすさにつながるでしょう。
また、このような制度以外にも、子育て中の従業員に対して、出勤退勤時刻をずらすことを認めるといった措置など、融通を利かせるとりくみを実施することも、育児に携わる従業員の満足度につながります。
従業員フォローを徹底する
従業員が出産・育児を機に職場を一時的に離脱する場合、休業期間が長期に渡るため、企業とのコミュニケーションが疎かになりがちです。
このような休業期間中に、定期的なコミュニケーションの機会をもてると、従業員の休業の延長や職場復帰の際の留意点を把握することが可能となり、従業員側も安心して休むことができるでしょう。
休業にはいる前後のフォローだけでなく、休業中においても、定期的なフォローを心がけることが大切です。
休みやすい職場環境をつくる
パパママ育休プラスを利用するうえで、従業員が最も気にする事項として、「長期間の休業をとりづらい雰囲気」があげられるでしょう。
このような雰囲気を払拭するためにも、事情によっては長期間の休業も許容し、バックアップするという企業としての姿勢を整える必要があります。
また、罪悪感を抱かずに、従業員が休暇をとるためには、休暇を取得しない従業員に業務が偏らないようにすることも大切です。
業務量の見直しや人員の最適化など、さまざまな観点から、従業員が安心して休める体制を整えましょう。
制度内容を明確化・周知する
パパママ育休プラスないし、男性の育児休業が、中小企業を中心に進んでいないことの要因として、制度内容自体を知らないので、使いようがないという問題があげられるでしょう。
2022年の育児介護休業法の改正により、従業員自身やその配偶者が妊娠し、育児休業の対象となり得る場合は、企業として制度の説明をするべきことが義務付けられました。
こういった説明責任を果たすためにも、日頃から制度について資料を掲示するなどの施策を実施し、制度利用が進むような周知を徹底することが重要です。
パパママ育休プラスの具体例
パパママ育休プラスの理解を深めるために、取得の具体例を紹介します。
父親が先に育児休業を取得する
パパママ育休プラスの利用において、育児休業を取得するのは、父親・母親のどちらでも問題はありません。
たとえば、産後休業終了後、育児を父親に一旦バトンタッチして、子が1歳になるまでに、母親が後発で育児休業を取得し、子が1歳2か月になるまで育児休業を取得するという運用も可能です。
祖父母が子の面倒を見られる間は夫婦共働き
祖父母が子育てに参画できる場合、父親と母親が別々の時期に休暇をとることが可能です。
たとえば、子が生後半年になった時点で、母親が育児休業から復帰、祖父母が3か月間、育児をおこなった後、父親が育児休業を取得し、子が1歳2か月になるまで育児をおこなうといった運用も、パパママ育休プラスでは可能です。
パパママ育休プラスでよくある質問
パパママ育休プラスは、利用に際して不明点が多く出やすい制度です。
最後に、パパママ育休プラスに関して、よくある質問について回答していきましょう。
どちらかが専業主婦(夫)の場合は取得できないのか
育児休業給付をうけるには、雇用保険の被保険者になっている必要があります。
この条件を満たしていれば、配偶者が専業主婦(夫)であっても、パパママ育休プラスを利用することが可能です。
子どもが何歳まで、育休は延長可能なのか
パパママ育休プラスの利用自体は、子が1歳2か月になるまでの期間となります。
しかし、育児休業給付自体は、保育園にはいれないなどの事情があれば、最長で、子が2歳になるまで延長することができます。
パパママ育休プラスを取得していても育児休業給付金は受給できるのか
パパママ育休プラスは、両親で育児休業を取得した場合、子が1歳2か月になるまで、片方が育児休業給付をうけることができる制度であり、育児休業給付金の受給を妨げるものではありません。
そのため、パパママ育休プラスを取得していても、育児休業給付金を受給することができます。
情報共有には「Chatwork」
パパママ育休プラスは、まだまだ浸透しているとは言えない制度です。
そのため、この制度をうまく活用できる企業は、従業員のワークライフバランスを大切にする企業として、アドバンテージを得ることが可能となるでしょう。
この制度の成功を左右するひとつの要素として、対象となる従業員との過不足のない円滑なコミュニケーションが必要となるでしょう。
育児休業中の従業員の状況を定期的に把握しておくことで、従業員は不安なく、育児に専念し、安心して職場復帰に挑むことができます。
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記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)
2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。