【社労士監修】働き方改革関連法とは?改正のポイントや違反の罰則を解説
目次
働き方改革関連法とは、労働環境の改善や働き方の多様化を促進するために制定された法律の総称です。
働き方改革関連法によって、日本の課題である少子高齢化や長時間労働の慢性化、働き方の多様化などに対応するために、働き方に関連するさまざまな法改正がおこなわれています。
そして改正された法律には、罰則も新たに設けられているため、企業は適切な労務管理を実施しなければいけません。
本記事では、働き方改革関連法の改正ポイントや違反した際の罰則を詳しく解説します。
働き方改革関連法とは
働き方改革関連法では、労働環境の改善や働き方の多様化を促進するために、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務化などを設けています。
改正された主な法律は以下のとおりです。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働契約法改正
- パートタイム・有期雇用労働法
- 労働者派遣法
そのほか、さまざまな法律が改正され、企業には改正に伴う対応が求められています。[注1]
働き方改革関連法の改正ポイント
働き方改革関連法の改正ポイントとしては、以下の8つが挙げられます。
- 時間外労働の上限規制
- 年次有給休暇の取得義務化
- 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
- 勤務時間インターバル制度の努力義務化
- フレックスタイム制の促進
- 労働時間の客観的把握
- 月60時間を超える時間外労働の割増賃金引き上げ
- 産業医の権限強化
それぞれのポイントを詳しく解説します。
時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から適用されています。
ただし、建設事業や自動車運転業など、一部の業務については、2024年3月31日まで猶予されています。
具体的な上限規制の内容は以下のとおりです。
- 単月100時間未満(休日労働を含む)
- 複数月平均80時間(2か月から6か月までの平均が80時間以内)
- 年間720時間
また、特別な事情があっても、時間外労働時間が月に45時間を超える月は、最大で6か月までとされています。
この上限を超えた場合は、特別条項付き36協定を締結していても違法となります。[注2]
>【社労士監修】36協定の特別条項とは?に関する記事はこちら
年次有給休暇の取得義務化
労働基準法の改正により、有給休暇を10日以上付与されている労働者に対して、年5日の取得が義務化されました。
企業は、「使用者による時季指定」「労働者自らの請求・取得」「計画年休」のいずれかの方法で、労働者に年5日以上の有給休暇を取得させなければいけません。
なお、対象となる労働者には、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。[注3]
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」とは、労働者の雇用形態にかかわらず、公平で平等な待遇を確保することをいいます。
これは、「同一労働・同一賃金」という考え方で、正社員と非正規社員の不合理な待遇差の解消を目的に、パートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法の改正によって定められました。
また、「同一労働・同一賃金」には、以下の2つの規制があります。
- 均等待遇:職務内容や配置が同じである場合に差別的な取り扱いを禁止するもの
- 均衡待遇:職務内容や配置が異なる場合でも、不合理な待遇差を禁止するもの
これらを考慮し、不合理な格差をなくす必要があります。
くわえて企業は、各手当や福利厚生などすべての待遇について、労働者から説明が求められたときは待遇の差について説明をしなければなりません。[注4]
勤務時間インターバル制度の努力義務化
「勤務時間インターバル制度」とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の時間を設ける制度のことです。
働き方改革関連法により、各企業に対して、努力義務化されました。
たとえば、インターバル時間を11時間とした場合、23時に終業した労働者は、翌日の始業時間が10時になるということです。
勤務時間インターバル制度を活用することで、労働者は適切な休息を取得でき、疲労やストレスの軽減や、健康的な労働環境の確保ができるようになります。[注5]
フレックスタイム制の促進
労働基準法の改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限が、1か月から3か月に拡大されました。
これにより、労働者は2か月または3か月の期間内で、自身の都合にあわせて労働時間を柔軟に調整することが可能となります。
なお、1か月を超える清算期間を設定した場合は、労使協定を労働基準監督署長に届出が必要になります。[注6]
労働時間の客観的把握
「労働時間の客観的把握」とは、労働安全衛生法の改正によって導入された制度です。
管理監督者を含め、労働者の労働時間を客観的に把握することが義務付けられました。
労働時間の客観的把握は、適切な勤怠管理や過重労働の防止を図り、労働者の健康管理と安全な就業環境の実現を目的としています。
具体的な把握方法としては、タイムカードによる記録や、PCの使用時間記録などがあげられます。
労働時間の記録に関する書類などは、3年間保存する必要があります。[注7]
月60時間を超える時間外労働の割増賃金引き上げ
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、これまで、大企業のみが50%以上とされていました。
しかし、2023年4月からは、中小企業についても、月60時間を超える時間外労働に対する割増率が50%以上とされています。[注8]
>【社労士監修】割増賃金の引き上げとは?に関する記事はこちら
産業医の権限強化
「産業医の権限強化」とは、労働安全衛生法の改正により、産業医の役割と権限が強化されたことを指します。
改正により、企業は、産業医に対して労働者の健康管理に必要な長時間労働者の状況や健康診断結果などの情報提供が求められています。
また、産業医は、労働者の健康を確保するために必要と認めた場合、企業に対して勧告をする権限をもちます。
勧告を受けた企業は、産業医の勧告内容を衛生委員会に共有し、調査審議をおこなうとともに、その内容を3年間保存する必要があります。[注9]
働き方改革関連法の取り組みが必要な理由
働き方改革関連法の取り組みが必要な主な理由は、少子高齢化による労働人口の減少と、長時間労働の慢性化、ライフスタイルの変化による働き方の多様化です。
労働者が、個々の事情に応じて柔軟な働き方を選択できるようになれば、働きやすい職場環境の提供と、就業機会の拡大につながります。
また、過度の長時間労働は、労働者の健康や労働意欲の低下を引き起こすリスクがあり、企業の生産性低下を招きます。
そのため、働き方改革関連法により、長時間労働を抑制するとともに、柔軟な働き方に対応したうえで、持続的な経済成長と競争力を確保することを目的としています。
働き方改革で必要となる取り組み
働き方改革で必要となる主な取り組みは、以下の3つです。
- 業務効率化
- 人材配置の最適化
- 賃金制度の見直し
それぞれの取り組みを詳しく解説します。
業務効率化
長時間労働を削減するためには、業務効率化は欠かせない取り組みです。
作業工程の見直しや改善できそうな業務の洗い出し、ITツールの導入や外部委託なども検討し、業務効率化を進めましょう。
業務効率化によって生産性を高め、労働時間の短縮や作業負担の軽減を図ることが、働き方改革を進めるうえで重要なポイントです。
人材配置の最適化
適切な人材配置は、生産性向上や定着率向上につながります。
人事担当者だけでなく、現場の上司の意見も参考にしながら、従業員の能力と適性に合わせた役割を割り当てましょう。
従業員一人ひとりの能力や適性に合わせて役割を割り当てることで、従業員のモチベーションが向上し、生産性の向上につながります。
賃金制度の見直し
同一労働同一賃金により、正社員と非正規社員で不合理な格差がないかを確認し、格差があった場合には見直しが必要になります。
ただし、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差を解消するにあたって、正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえません。
もし、正社員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要になります。
賃金制度の見直しは、慎重に検討したうえで実施しましょう。
働き方改革関連法に違反した場合の罰則
働き方改革関連法の罰則にあたる主な行為は、以下のとおりです。
- 時間外労働の上限違反
- 年次有給休暇の取得義務違反
- フレックスタイム制の清算期間伸長の届出義務違反
- 割増賃金の未払い
それぞれの罰則について詳しく解説します。
時間外労働の上限違反
原則時間外労働は、月45時間、年間360時間が上限ですが、特別条項付き36協定を締結すれば、上限を超えて時間外労働が可能になります。
ただし、特別条項付き36協定を締結した場合でも、以下の時間を超える時間外労働は、労働基準法違反となります。
- 単月100時間未満(休日労働を含む)
- 複数月平均80時間(2か月から6か月までの平均が80時間以内)
- 年間720時間
- 月45時間を超える時間外労働が年6か月を超える
これに違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。[注2]
年次有給休暇の取得義務違反
働き方改革関連法により、有給休暇の日数が10日以上ある従業員に対し、年5日の取得義務が課されました。
違反した場合は、従業員1人あたり30万円以下の罰金が科されます。
たとえば、年5日の取得義務を果たさなかった従業員が2人であれば、「60万円以下の罰金」、10人であれば「300万円以下の罰金」に処せられることになります。[注3]
フレックスタイム制の清算期間伸長の届出義務違反
フレックスタイム制の清算期間を1か月超える期間に設定する場合は、労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければいけません。
労使協定を届け出ずに運用していた場合、労働基準法違反として30万円の罰金が科される可能性があります。[注6]
割増賃金の未払い
2023年4月以降、中小企業にも60時間を超える時間外労働に対して、割増率50%以上の割増賃金の支払いが義務付けられました。
割増賃金が未払いの場合や、50%に達しない割増率で支給していた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。[注10]
働き方改革を円滑に進めるポイント
働き方改革を進めるためには、社内の環境整備を進めることが必要不可欠です。
最後に、働き方改革を円滑に進めるためのポイントを2つ紹介します。
- 自社の課題を把握して改善する
- DX化を促進させる
働き方改革を推進する際の参考にしてみてください。
自社の課題を把握して改善する
働き方改革を効果的に進めるためには、これまでの労働環境を変える必要があります。
そのために、長時間労働削減の原因を特定したり、業務体制を見直したりなど、現在の状況を把握し、改善する施策が必要です。
たとえば、フレックスタイム制を導入して時間外労働を削減したり、業務体制を見直して年次有給休暇の計画的付与を実施したりなどの制度導入があげられます。
まずは、自社が抱える課題を把握し、徐々に改善しながら社内の働き方を変えていきましょう。
DX化を促進させる
業務効率化や勤怠管理などは、DX化を促進すれば改善する可能性があります。
たとえば勤怠システムを導入すると、打刻時間や勤怠状況がパソコンやスマートフォンで確認ができるようになり、場所にとらわれず勤怠状況の確認ができます。
また、紙ベースでおこなっていた各申請もシステム化することで、従業員の事務の軽減にもつながるでしょう。
そうしたDX化の促進は、業務効率化や利便性の向上により、働き方を変えるきっかけとなります。
働き方改革の促進に「Chatwork」
働き方改革関連法は、労働環境の改善や働き方の多様化を促進するために制定された法律の総称です。
働き方改革を実現するためには、業務効率化や賃金制度の見直しなど、さまざまな改善を実施する必要があります。
自社にあった方法で働き方改革を進め、従業員が健康的に生き生きと働ける職場環境を目指しましょう。
働き方改革を進めるにあたって効果的なDX化の第一歩として、ビジネスチャット「Chatwork」の活用がおすすめです。
「Chatwork」は、チャット形式でコミュニケーションがとれるビジネスツールで、社内外問わずに無料で使いはじめることができます。
たとえば、いままでメールや電話でおこなっていたやりとりをチャットにしたり、書類のチェック依頼をチャット上でおこなったりすると、時間や手間のコストの削減につなげることができます。
「Chatwork」は、はじめてビジネスチャットを使う方でも簡単に使いはじめることができるシンプルな仕様のツールです。
無料で使うことができるため、まずは部署やチームなどの単位で使いはじめ、コミュニケーションの変化や業務の効率化を実感してみてはいかがでしょうか。
働き方改革の促進に「Chatwork」をぜひご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注1]出典:厚生労働省「働き方改革関連法等について」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kankouju/kai/chihou_suishin/kuni/mhlw.pdf
[注2]出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
[注3]出典:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
[注4]出典:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
[注5]出典:働き方・休み方改善ポータルサイト「勤務間インターバル制度とは」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/
[注6]出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
[注7]出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/070614-2.pdf
[注8]出典:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
[注9]出典:厚生労働省「産業医・産業保健機能と長時間労働者に対する面接指導等が強化されます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000496107.pdf
[注10]出典:e-Gov法令検索「労働基準法119条」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
※本記事は、2023年9月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。