【社労士監修】過労死ラインとは?長時間労働のリスクや企業が取り組むべき対策を解説
目次
過労死ラインとは、健康障害のリスクが高まる時間外労働時間の目安のことです。
過労死ラインを超えた労働時間は、従業員の過労死や過労自殺を招く恐れがあります。
本記事では、長時間労働のリスクや企業が取り組むべき対策を解説します。
過労死ラインとは
過労死ラインとは、長時間労働によって健康障害のリスクが高まり、労働災害として認定される可能性がある時間外労働時間の目安です。
過労死ラインを超える時間外労働が継続するほど、脳・心臓疾患により死亡する可能性が高くなるといわれています。
そのため、企業は、過労死ラインを超える時間外労働を避け、従業員の健康を守るための対策を講じる必要があります。
過労死ラインの基準
厚生労働省は、月100時間または2〜6か月間にわたっての月80時間を超える残業は、過労死のリスクが相当高いことから、この時間を過労死ラインの基準としています。[※1]
また、過労死ラインの時間に達していなくても、これに近い時間外労働をおこなった場合など、労働時間以外の負荷要因があった場合も、脳・心臓疾患の発症との関係が強いとされています。
時間外労働だけではなく、労働環境も健康障害のリスクが高まる要因となることを覚えておきましょう。
過労死ラインの4つの見直しとは
2021年9月に、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、過労死ラインの見直しがおこなわれました。[※2]
ここでは、見直された4つの事項について、それぞれ詳しく解説します。
- (1)労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合評価
- (2)労働時間以外の負荷要因の見直し
- (3)短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性の明確化
- (4)対象疾病に「重篤な心不全」の追加
改正のポイントを正しく理解しましょう。
(1)労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合評価
従来の認定基準では、長期間の過重業務の評価は、労働時間のみに基づいておこなわれていました。
しかし、労働時間以外の負荷要因も、脳・心臓疾患の発症に影響を与える可能性があることから、今回の改正では、労働時間以外の負荷要因も考慮して評価をおこなうことになりました。
具体的には、以下のような要因が労働時間以外の負荷要因として考慮されます。
- 勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、不規則な勤務など)
- 作業環境(激しい温度差の作業環境、長時間の騒音環境など)
- 心理的負荷(長時間の精神的緊張、達成困難なノルマなど)
つまり、労働時間だけではなく、労働環境の要因も含めて、労災認定をおこなうようになったということです。
(2)労働時間以外の負荷要因の見直し
改正された脳・心臓疾患の労災認定基準では、労働時間以外の負荷要因についても見直しがおこなわれました。
労働時間以外の負荷要因として追加されたのは、以下の項目です。
- 休日のない連続勤務
- 勤務間インターバルが短い勤務
- その他事業場外における移動を伴う業務
- 心理的負荷を伴う業務
- 身体的負荷を伴う業務
これらの見直しにより、労働時間以外の負荷要因をより幅広く考慮して、労災認定がおこなわれるようになりました。
(3)短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性の明確化
従来の認定基準では、短期間の過重業務や異常な出来事が業務と発症との関連性を示すものとして規定されていましたが、具体的な判断基準が明確ではありませんでした。
この具体的な判断基準について、今回の改正で具体的な例が示されました。
短期間の過重業務 | 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合 |
---|---|
発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合 | |
異常な出来事 | 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合 |
事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合 | |
生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合 | |
著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合 | |
著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合 |
(4)対象疾病に「重篤な心不全」の追加
従来の認定基準では、心不全症状は「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱っていました。
しかし、改正後は、心不全は心停止とは異なる病態であるとして、「重篤な心不全」が追加されました。
過重労働が引き起こすリスク
過重労働は、過労による事故だけではなく、脳・心臓疾患を発症させる可能性もあるため、発症した場合、「労働災害」として取り扱われる可能性があります。
また、過重労働によって精神的・心理的負担が増加すると、精神障害を起こして自殺に発展する可能性もあるため、慎重に取り扱う必要があります。
「令和4年度過労死等の労災補償状況」によると、1年で183件の自殺者(未遂含む)が報告されています。[※3]
企業は、過労死ラインを超えないよう努めるとともに、過労死ラインを超えた従業員に対しての徹底したケアが求められます。
過重労働が労災と見なされるケース
過重労働による健康障害で労災認定をうけるためには、いくつかの基準をクリアしている必要があります。
ここでは、精神疾患のケースと脳・心疾患のケースをそれぞれ解説します。
精神疾患のケース
精神疾患で労災認定されるための要件は以下のとおりです。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発症前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
認定基準の対象となる精神障害とは、うつ病や統合失調症、急性ストレス障害などです。
業務による心理的負荷によって発症したと認められる場合は、労災認定される可能性があります。
また、心理的負荷は、「業務による心理的負荷評価表」を参照して、「強」「中」「弱」の強度で評価され、労災認定がおこなわれます。
一方、業務による心理的負荷が強かった場合でも、離婚や借金など、私生活での強いストレスが影響して発症した精神障害は、労災認定されない場合があります。[※4]
脳・心疾患のケース
脳・心疾患で労災認定されるための要件は、以下のいずれかに該当した場合です。
- 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)
- 発症に近接した時期において、とくに過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)
- 発症直前から前日までの間において、発生状態を、時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)
「長期間の過重業務」とは、1か月100時間または2〜6か月間にわたって月80時間を超える時間外労働をおこなったことによるものです。
「短期間の過重業務」や「異常な出来事」は、1週間から発症前日までに過重な業務や強い精神的負荷がかかったことで発症した場合に該当します。
いずれにしても、業務が起因となり脳・心疾患が発症した場合は、労災認定される可能性があります。
過労死ラインの違法性とは
特別な事情があったとしても、月100時間以上または2〜6か月平均で80時間を超える労働は、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、従業員が過労死した場合は、企業側に刑事責任が発生する可能性もあるため、過労死ラインを超える時間外労働は、決しておこなってはいけません。[※5]
企業が取り組むべき過労死ライン対策
企業が取り組むべき過労死ライン対策としては、以下の6つが考えられます。
- 労働時間の適正な把握・管理
- 定期的なストレスチェックの実施
- ハラスメント教育の実施
- 勤務間インターバル制度の導入
- 従業員が相談できる職場環境の整備
- 専門家との連携
過労死や過労死ラインにつながる過重労働を防ぐためにも、企業が取り組むべき対策についての正しい知識をつけましょう。
労働時間の適正な把握・管理
労働時間を適正に把握・管理することで、従業員の労働状況が把握でき、長時間労働を防止するための対策を講じることができるようになります。
たとえば、労働時間を把握した結果、特定の部署のみ時間外労働が多いことが判明した場合は、部署全体の業務見直しや人員配置の見直しなどの検討ができるようになるでしょう。
過労死や健康障害を未然に防ぐためにも、まずは適切な労働時間の把握・管理を適切に行う必要があります。
定期的なストレスチェックの実施
ストレスチェックは、労働安全衛生法で、従業員が50人以上の企業で実施が義務化されていますが、50人未満の企業では義務化されていません。
しかし、過重労働や過労死につながるストレスの蓄積を防止するために、従業員が50人未満の企業でも、ストレスチェックを実施するようにしましょう。
従業員の心理的負荷がどれだけかかっているのかを把握することで、過労死の防止につながります。[※6]
ハラスメント教育の実施
職場のハラスメントは、従業員の心身の健康を損なうだけでなく、過労死のリスクを高める原因にもなります。
ハラスメントの発生を防ぐためには、まず、ハラスメント教育を実施し、従業員にハラスメントの種類や具体的な行為などを理解させ、意識させる必要があります。
ハラスメントは、全従業員が対象となるため、新入社員だけでなく、全従業員を対象に、定期的に研修を実施することが大切です。
勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度とは、終業時間から翌日の出社時間までの間に、一定の休息時間を設ける制度です。
たとえば、勤務間インターバルを9時間設けた場合、23時に終業した日の翌日は8時まで出社が制限されるということです。
インターバルを設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間が確保され、過重労働を防ぐことができるでしょう。[※7]
従業員が相談できる職場環境の整備
過労死は、長時間労働や職場のストレスなどの要因が重なり合って引き起こされると考えられています。
このようなストレスの蓄積を軽減するためにも、企業側は、従業員が相談できる環境や人員を整備する必要があります。
従業員が相談できる職場環境が整っていれば、早期に問題を把握し、対処に動くことができ、過労死のリスクを低減させることができるでしょう。
相談窓口や相談の相手は、産業医や産業保健師、人事部、労働組合など、従業員が信頼できる立場の人が担当することが望ましいです。
専門家との連携
過労死は、長時間労働や職場のストレスなどの要因が複合的に絡み合って引き起こされるため、企業が単独で対策を講じるのは難しいケースもあります。
そのため、企業は、産業医や産業カウンセラー、社会保険労務士の専門家と連携し、より効果的な対策を講じるようにしましょう。
従業員が健康的に生き生きと働ける職場環境を整備するためにも、過労死ラインの対策は、専門家の意見や知識を参考にしつつ、慎重に進めることが大切です。
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過労死ラインは、過重労働による健康障害や死亡のリスクが高くなる時間外労働時間の目安のことです。
過労死ラインに届かない時間外労働でも、そのほかの負荷要因が重なれば、精神障害や脳・心疾患が発症する可能性もあります。
企業は過労死ラインを超えないように長時間労働を抑制するとともに、ハラスメント対策など、負荷要因を軽減するさまざまな措置をおこなうようにしましょう。
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記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。